築30年を超える市営住宅に、私たち家族が引っ越してきた時のこと。部屋に入って最初に感じたのは、昭和の時代で時が止まったかのような、古びた壁紙と、日に焼けてささくれた畳の存在感でした。「このままでは、新しい生活へのワクワクが半減してしまう…」。そう思った私は、どうにかしてこの空間を自分たちらしく、明るくできないかと考え始めました。もちろん、市営住宅なので、勝手なリフォームはできません。そこで、まず私が行ったのは、市の住宅管理センターへ出向き、正直に相談することでした。「壁と床の雰囲気を変えたいのですが、退去時に元に戻せる範囲で、何かできることはありませんか?」。担当者の方は親身に話を聞いてくださり、「建物を傷つけず、原状回復できる方法であれば、特に申請は不要ですよ」という、嬉しい返事をくれました。その言葉を胸に、私の「原状回復OK」なDIY計画がスタートしました。まず、ターゲットは壁です。選んだのは、裏面がシール状になっていて、貼ってもきれいにはがせる「弱粘着タイプのリメイクシート」。リビングの壁一面だけを、明るい木目調のデザインにすることにしました。既存の壁紙の上から、空気が入らないように慎重に貼り付けていく作業は、まるで大きなプラモデルを組み立てるようで、夢中になれる時間でした。次に、問題の畳です。フローリングに憧れはありましたが、大掛かりな工事はできません。そこで私が選んだのが、「ウッドカーペット」です。畳の上に、まずはカビやダニを防ぐための防虫シートを敷き、その上に、部屋のサイズに合わせて注文したウッドカーペットを広げるだけ。重くて大変でしたが、敷き終えた瞬間、部屋の景色は一変。古びた和室が、温かみのあるフローリングの空間へと生まれ変わりました。費用は、全て合わせても3万円程度。業者に頼むことなく、ルールを守りながら、自分たちの手で、たった数日で空間を劇的に変えることができました。この経験は、「できない」と諦める前に、まずは「相談してみる」「工夫してみる」ことの大切さを、私に教えてくれました。