マンションの室内でひび割れを見つけると、多くの人は建物の強度に問題があるのではないかと不安に感じます。しかし、ひび割れの多くは、マンションの主構造であるコンクリートそのものが持つ性質によって引き起こされる自然な現象なのです。その代表的なものが、乾燥収縮と呼ばれるプロセスです。コンクリートは、セメント、水、砂、砂利などを混ぜ合わせて作られます。打ち込まれた直後のコンクリートは流動性のある状態ですが、化学反応によって徐々に硬化していきます。この硬化プロセスと並行して、コンクリートに含まれる余分な水分が時間をかけて蒸発していきます。水分が失われると、コンクリートの体積はわずかに減少します。これが乾燥収縮です。この収縮が起きる際に、コンクリート内部に応力が発生し、その力に耐えきれなくなった部分にひび割れが生じるのです。これは、いわばコンクリートが安定した状態へと落ち着いていく過程で起こる、ある種の成長痛のようなものと考えることができます。特に、マンションが完成してから数年間は、この乾燥収縮が活発に起こる時期です。そのため、築浅のマンションであっても、壁や天井に細かなひび割れ、いわゆるヘアークラックが発生することは決して珍しいことではありません。これらのひび割れは、コンクリートの表面近くで発生するものがほとんどで、建物の構造的な強度に影響を及ぼすことはまずありません。むしろ、適切に管理された建物であれば、ある程度のひび割れが発生するのは当然のこととさえ言えます。もちろん、全てのひび割れが安全なわけではありません。ひび割れの幅が大きく、年々広がっているような場合や、特定の場所に集中して発生している場合は、乾燥収縮以外の原因、例えば不同沈下や構造上の問題が隠れている可能性も考えられます。マンション室内のひび割れを理解するためには、その背景にあるコンクリートという材料の特性を知ることが不可欠です。この知識があれば、いたずらに不安がることなく、冷静に状況を判断し、適切な対応をとることができるようになるでしょう。
コンクリートの乾燥収縮とひび割れの関係