賃貸物件に長年住んでいると、フローリングも少しずつ劣化していきます。太陽の光で色褪せたり、普通に生活しているだけで細かな傷がついたり。そんな時、「この床の張替え費用は、一体誰が負担するのだろう?」という疑問が湧いてきます。入居者の責任なのか、それとも大家さんの責任なのか。この問題には、国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という、明確な指針が存在します。このガイドラインにおける基本的な考え方は、「経年劣化・通常損耗」による修繕費用は大家さん(貸主)が負担し、「入居者の故意・過失」による損傷の修繕費用は入居者(借主)が負担する、というものです。「経年劣化」とは、時間の経過と共に自然に品質が低下すること。例えば、日当たりの良い場所のフローリングが色褪せるのは、これに該当します。「通常損耗」とは、普通に生活していれば自然に発生する程度の傷や汚れのこと。例えば、家具を置いていたことによる軽微な凹みや、冷蔵庫の下の黒ずみ(電気やけ)などは、通常損耗と見なされることがほとんどです。これらの理由でフローリングの全面張替えが必要になった場合、その費用は原則として大家さんが負担すべきものとされています。一方、「入居者の故意・過失」とは、入居者の不注意や通常とは言えない使い方によって生じた損傷のことです。例えば、飲み物をこぼしたのに放置してシミやカビを発生させてしまった、キャスター付きの椅子で床を傷だらけにしてしまった、ペットがつけた深い引っかき傷、重い物を落としてできてしまった大きな凹みなどがこれにあたります。このような損傷が原因で全面張替えが必要になった場合は、入居者がその費用を負担しなければなりません。ただし、その場合でも全額負担とは限らない「減価償却」という考え方があります。フローリングの劣化は、経年劣化と入居者の過失の両方が影響している場合も多く、その判断は非常にデリケートです。まずはガイドラインの基本を理解し、自分のケースがどちらに当てはまるのかを冷静に見極めることが大切です。