私はこれまで数多くの住宅リフォームに携わってきましたが、相談者の方から一番最初に聞かれるのは決まって「だいたい坪単価いくらくらいでできますか」という質問です。そのたびに私は、坪単価という指標がリフォームの現場ではいかに不正確で、時には誤解を招くものであるかを丁寧に説明するようにしています。新築であれば、一定の品質を保った商品を大量に生産する仕組みがあるため、坪単価はある程度の信頼性を持っています。しかし、リフォームは、いわばオーダーメイドの「手術」に近いものです。同じ症状に見えても、患者である家の体力や、過去のメンテナンス履歴によって処置は全く異なります。たとえば、二十坪の住宅を二軒並べてリフォームするとします。一軒は手入れが行き届いており、表面の張り替えだけで済む場合。もう一軒は雨漏りを放置しており、下地の木材が腐っている場合。同じ面積であっても、後者の坪単価が跳ね上がるのは明白です。このように、既存の建物のコンディションが変数の大部分を占めるリフォームにおいて、一律の坪単価を提示すること自体に無理があるのです。さらに、分母となる「面積」の捉え方も問題です。一部屋だけを贅沢に直したい場合、施工面積は小さくなりますが、職人の手配料や運搬費といった固定費は面積にかかわらず発生するため、坪単価は極端に高くなります。逆に、家全体をまんべんなく直せば、固定費が分散されて坪単価は下がりますが、支払総額は当然増えます。つまり、坪単価を下げることが必ずしも節約には繋がらないという逆説的な現象が起こるのです。私が設計を行う際は、坪単価ではなく、まずは「何を実現したいか」という目的から入り、項目ごとの積み上げ方式で見積もりを作成します。キッチンにいくら、断熱にいくら、といった内訳を明確にすることで、施主様も「ここは削れる、ここは譲れない」という判断がしやすくなるからです。坪単価はあくまで、大まかな規模感を掴むための入り口に過ぎません。その数字の裏側に隠された無数の選択肢と、建物の現状を真摯に見つめることこそが、建築家と施主様が共有すべき誠実な対話の第一歩であると私は確信しています。
建築士が語る坪単価の指標としての限界